Malorn's Diary
−9−

 

僕にはあなたがあることの喜びを
知ることのなかった、僕へ


たぶん君は、かなしみもよろこびも
幸福も不幸も知っていたろう
それは憐れでも白雉でもないけれど
器のあることを知らず、いくらミルクをみつけても
それを飲むことはできないのだ


















9月6日
おはよう、元気にしているかい?
ほんとは昨晩も来たばかりなんだけど
帰った後、窓を開け放しにして眠ったら
早くから朝焼けに起こされてしまった
もしかしたら、忘れものを夢の中で思い出して
それが眠りを浅くしていたのかな
昨日ここへ来たとき、この本に言葉を記すことを忘れて
すっかり書いたつもりになってしまっていたんだ
だから、今日は一夜を過ごしてしまった僕の昨日の思いを
思い起こしながら、記しておこうと思う

何かで読んだのか、
それとも自分でそう考えたのかわからなくなってしまったけれど、
とにかく昨日、思索の中でこういう形を知った
恋は君の長所
素晴らしい点に惹かれるもので
愛は君の短所
それすらをいとおしく思うものだと
しかし、短所とはいったいなんだろうね


君の欠点にすらひかれてしまうのが愛だというなら
そうなったとき、そのいとおしい”短所”を
どうやって”欠点”と知ればいいんだろう
客観的に見たときの短所をさすのなら
既に君の虜の僕には
もう観客に戻るなんて到底無理
一切合財、君にうばわれるために
僕は自ら囚われの身になる
そんな僕に
君の欠点を挙げてみろといわれても、無理な話だ
想いは熟すにつれ、恋から愛に変わるものなのだろうか
愛情は恋情の確たる姿なのだろうか
この上なく君に想いを馳せる僕は
君に恋をしているんだろうか。君を愛しているんだろうか。
絡み合う連鎖の言霊は
真実を得るための楔となって人を惑わす
僕はどっちだろう
どちらならするりと呑み込めるんだろう

























甘美なものと誠実なものと
その両方を内包するそれぞれが、問い掛けてくる
ぼくのこころのかたち

でもね ほんとは
愛でも恋でも どっちでもいい
君が好き
それでめいっぱい



『――もう堪え切れず、ぼくは頭をたれて誓った。「この、
 天井の霊が 漂う唇に口づけしようなどとは絶対にしないぞ。」
 ――しかし、しかし――ぼくはどうしても――ああ、
 わかるだろう、それがぼくの魂の前に隔ての壁のように
 立っているんだ。――あの幸福
――それをえさえしたなら
 身を滅ぼしてその罪は償ったっていい――罪?』

9月11日
僕があなたをささえにしていることを
どうか誇りに思ってください
あなたの言葉で僕が救われることを
どうか喜びと感じてください
あなたを思って零す涙に
どうか憐れと思うより 僕の幸せを知ってください
あなたがいないとたおれてしまう僕を
どうかいとおしいと感じてください

それは なにもかもすべて
親愛なる感情でかまわないのです
唯一なる愛情でなくともかまわないのです
あなたのきよらかなこころは
どちらであっても、至上のうつくしさ
きずひとつない花弁そのものなのですから

あなたがわけへだてなく愛するひとつひとつへの思いや
たおやかに差し出されるてのひらが
どれであれ なにかたりないものなどある筈もないのです























なぜなら
あなたはこんな僕にさえ
姿も、言葉も、存在の熱すらもなしに
これほどに真実を与えてくれるのですから

僕は知っている言葉を口にするだけです
あなたは僕を幸せにすることを口にします
幾千の物語よりも
想像のあなたは幾万を語る
一切のことばなしに


ああ
すきだよ



ほんとうにうまくいえない

『だがそんなことをしたって仕方がないんだがね。
 ぼくを不安にし傷つけるようなことをどうしてこの胸
 一つに納めておかないんだろう。なぜ君までも
 悲しますんだろう。なぜぼくはこういつも君にたいして、
 ぼくをあわれみしかる機会を与えるのだろうね。
 まあ、いいさ、これもぼくの運命の一つだろう。』

Dldj Werthers111 Goethe

私の知らぬ父よ、これまで私の全霊を満たしておられたのに、
 今はこの私から顔をそむけてしまわれた父よ、私をどうか
 あなたのところへ呼び寄せてくださいまし。 もうこれ以上
 黙っていないでください。 黙っておられたって、
 この飢えた魂は思いとどまりはしない。』